【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第124回

2012/4/5
「こんなもんじゃないだろう」

 J1第3節・名古屋×新潟。
 これはチームがまだ出来てないってことなんだろうなぁ。新潟は敵地・瑞穂陸上競技場でリーグ戦3連敗を喫す。パターンは前節の大宮戦によく似ている。前半攻勢に出て、後半にやられる。もちろん「決めるときに決めていれば」なんだけど、その「決めるとき」がまだ足りないのだと思う。連携というかコンビネーションが不足している。これは前に書いたけれど、ミシェウ(戻ってきてくれて心強いですね)の入ったチームを見ないと判断つかない部分もある。が、名古屋戦を見る限り相互理解が足りず、化学変化前のチームに思える。

 この試合は名古屋がコンディション上の問題を抱えていた。ミッドウィークにACL予選をオーストラリアで戦い、身体が重そうだった。ケネディ、藤本ら故障を抱えている選手もいる。最初から省エネで戦うゲームプランだったと思う。

 だもんで冒頭書いた「前半攻勢に出て」は、ある程度割り引いて考えなくてはならない。名古屋は戦術としてやらせていたのだろう。要所を締めれば何とかなるという発想。それにしても前半はDFの前にスペースがあって、新潟のチャンスが続出した。

 新潟側のみどころは「平井将生初スタメン」に尽きる。ついにスタメンで使ってきた。今季、新潟の最大の売りのひとつといっていい。一昨シーズン、G大阪で14得点挙げたアタッカーが本領を発揮する機会だ。平井本人もスタメンで使ってもらえればとジリジリしていた。ていうか、それを望んで期限付き移籍で来たのだ。が、4-4-2を採用すると平井か貴章のどちらかが控えになる。それもあって黒崎監督は3トップのオプションを開幕直前まで試した。それがしっくり行ってないのが、基本布陣4-4-2の意味なのだと思う。といって4-3-3の併用は開幕から続けられている。得点力が課題のチームとしては、平井も生かしたいし貴章も生かしたい。

 試合。その平井が見せ場を作ったのが前半10分だ。遠めから積極的に打ち、クロスバーを直撃した。常にゴールに向かって仕事をする平井の特徴がよく出たシーン。手応えのあるシュートだったと思うが、バーにはね返されてものけぞって悔しがったりしない。目はリバウンドを追っている。結果を出したい。その貪欲な姿勢に好感が持てる。

 前半は名古屋の動きがホントに悪かった。平井が仕事するのにおあつらえ向きだった。が、新潟初ゴールはおあずけだ。これは本人がいちばん納得してないだろう。

 0対0で前半終了。フツーに考えれば遠征疲れのチームは後半バテてくれそうなものだが、妙に攻撃のリズムが出てハーフタイムに入った。実に不気味だった。名古屋は熟成された大人のチームになっている。例えば「がむしゃら」みたいな言葉が似合わない。僕自身の好みを言えばピクシー監督1年めのチームが躍動感があって面白かったが、あの方向ではなく、大人っぽい、「どうにかするチーム」に進化している。今日も新潟の攻勢をいなして、後半まとめてくるのじゃないか。

 そうなってしまった。新潟はそこから2失点する。どちらもアンラッキーというか、運のない失点だ。1点めはケネディに運ばれ、DFが2人カットに行って、2人ともカットしたボールが相手に当たり持ち込まれている。後半4分、パスが金崎に渡って決められた。
 それから2点め、新潟が絶好の得点機を作った。アラン・ミネイロのシュートが闘莉王に当たり、こぼれがブルーノ・ロペスの前へ。GK・楢崎をかわしたループシュートは闘莉王に阻まれる。それがカウンターの反撃にあって、玉田に切り込まれ、同22分、ケネディのヘッド。
 新潟目線で見れば運のない失点だが、名古屋としてはプラン通りだろう。新潟にはまだ武器がない。相手をあわてさせる攻撃の厚みがない。いなしていれば勢いが止まる。ロスタイムにブルーノがDFのミスパスをさらって1点返すが、そこまでだった。

 たぶん遠征疲れのチームの注文通りの展開になってしまったのだ。本当に悔しいことだ。僕は新潟サポは名古屋にこそムキになるべきだと思う。10年天皇杯、ピクシーがクリスマス休暇が欲しくてメンバーを落した名古屋にPK戦で敗れている。そのときはやはりクリスマス休暇が欲しいケネディ(不出場)が「ウィニングチーム・ネバー・チェンジ」と笑いながらスーツ姿で引き上げていったものだ。11年ナビスコ杯準々決勝は延長戦の死闘で敗れている。あのときは川又堅碁が闘莉王に「お前誰だよ。誰だよ。お前だよ。名前何だよ」とピッチで脅され、目を合わさないようにしていた。どちらも瑞穂での出来事だ。いつか借りは返さないといけない。

 ともあれリーグ戦開幕3連敗は受けとめるべき事実として残った。この先をどう考えるべきか。まず、本質的な問題、選手の相互理解やコンビネーションの熟成は時間のかかることだ。逆に言うと時間が解決してくれることでもある。しばらく多くの得点は望めないかもしれないが待つしかない。

 短期的には平井、貴章のファーストゴールだ。これはすごくムードが変わる。それがホームなら是非とも歓喜を爆発させて選手をノセて欲しい。この2人がノルかどうかにチームの浮沈がかかっている。

 そしてもうひとつ、ミシェウの戦列復帰だ。ミシェウは新潟が持っている代えのきかないカードだ。もしかすると色んなことが解決してしまうのかもしれないし、新たな可能性がひらけるかもしれない。まだ僕らは12年アルビレックスを片鱗しか見ていない。こんなもんじゃないだろう。


附記1、アイスバックスは地元・日光に戻ってのファイナル第4戦で敗れ、優勝に届きませんでした。が、延長にもつれ込む熱戦を演じた選手らを僕は誇りに思います。そして観客が本当に戦ってくれた。瀬高哲雄選手が言ってたんですが、氷上にいて会場が揺れるのがわかったそうです。あ、そうそう、はるばる新潟から駆けつけてくれたアルビサポがいて感激しました。

2、僕の思いはやっぱり「お金がないとか地方クラブだとか、そんなの最初からわかってるよ。つまんないよ。オレは先手を打ってバカの1号で行く」なんですね。だもんで、翌日曜の名古屋戦負けはダブルで悔しかった。王子製紙アイスホッケー部(現・王子イーグルス)はサッカーで言えば名古屋です。じゃ、アイスバックスは新潟かというと、理念はそうですけど、予算規模は水戸ホーリーホックかな。

3、最初、うーんと思っていたアウェーのたすきがけユニ、早くも見慣れてきました。カッコいいんじゃないか。

4、今週、『なぜ流通経済大学サッカー部はプロ選手を輩出し続けるのか?』(秋元大輔・著、東邦出版)が届きました。著者の秋元さんは一時、僕の担当編集者だったこともあるサッカーバカで、何とまぁ、採算度外視して3年も流経大・中野雄二総監督に張りついたでやんの。もちろん三門雄大にも取材している。あと水戸短大付属高校時代の小澤英明の話も秀逸。三門&オザーさんファンは必読ですね。個人的には秋春制について「プロの理由だけで導入したら大混乱に陥る」というアマチュアサッカー側からの視点にハッとしました。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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