【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第135回
2012/6/21
「柳下アルビ誕生!」
従来の当コラムの流儀に従えば先週のナビスコ連戦(5節6節)について記すべきところだ。が、柳下正明・新監督の就任が正式発表され、「チーム上野」が解体された今、その細部を描くことに積極的な意味を見出し難い。上野展裕代行はユース監督に復任された。クラブ史上の一大事を受けて立ち、ベストを尽くされた上野さんに感謝したい。現場も、プレスの評判も上々の「監督代行」だった。これから僕らはユースチームを以前より熱い気持ちで応援できる。
柳下監督の就任会見の様子をユーチューブで見た。又、質疑応答の再録を神田強化部長のものも含め、モバアルで熟読した。ハラハラしながら待った甲斐がある。いや、もう何というか頼もしいなぁ。「百戦練磨」という言葉が浮かぶ。柳下さんは歴代、新潟を率いた監督さんでダントツのJリーグ指導歴だ。もちろん大方の想像通り、神田部長と東京農大の先輩後輩の間柄、という縁で実現した話だ。言わば「神田人脈の奥の手」だ。
最高の人選だと思う。契約期間は13年1月までということだが、長く見たい監督さんだ。スカウティングと勝負哲学に定評がある。そして情熱の人だ。菊地、大井、藤田と「柳下流」門下生がいるのも面白い。もちろんすぐに結果に結びつくほどサッカーはカンタンじゃないけれど、柳下さんなら粘り強くやり抜くだろう。
就任会見で興味深かったのは「来年もJ1にいること」とミッションを明示したことだ。開幕以来、成績が上がらないなかで「タイトルを狙う」「ACL出場」という目標が宙ぶらりんになっていた。僕はかねて当コラムで新潟もタイトルを狙うべきだと主張し、根本のところでその考えを引っ込めるつもりはないのだけど、状況を考える必要がある。今シーズンは「J1残留」に総力を挙げる年だろう。まだ天皇杯が残っているが、優先順位は明らかに「J1残留」だ。
もしも開幕前に口にした「タイトル」「ACL」がクラブを縛っていたとしたら、それはナンセンスというべきだ。幸いにして新潟は「J1残留」にロックオンした。僕らもそれを肝に銘じよう。これから壮絶なサバイバル戦が始まるのだ。
当たり前のことを言うようだが、J1というステージは何をおいても死守する値打ちがある。特に新潟のような親会社を持たないクラブは尚更だ。J2に降格したらスポンサーフィーをはじめ、様々なことが縮小しかねない。体力のある企業傘下のクラブとは意味が違う。「一度J2に落ちて、じっくりチームを作り直す」は資金力豊富なクラブ(と、そのサポ)にだけ許される台詞なのだ。欧州の信用不安もあって、景気の先行きだって見えない。頼りのスポンサーフィーも心配だ。2012年のこのタイミングで第一優先すべきところはハッキリしている。
僕は監督術には大雑把に言って2つの方向性があると思っている。「戦術に選手を合わせる」と「選手に戦術を合わせる」だ。前者の例はフィリップ・トルシエだろう。十八番にしている戦術を選手に叩き込んでいく。もうナイジェリアを指揮しても南アフリカを指揮しても日本代表を指揮してもフラットスリーだった。Jリーグ監督の常連では三浦俊也さんもこのやり方だ。
に対して「選手に戦術を合わせる」は手持ちの選手の特性から発想する。おそらく柳下さんのアプローチはこっちになるだろう。黒崎、上野という前任者の戦術プランを大枠では引き継ぎながら足りないものをプラスしていく。だからガラッと変わるイメージではなくてジワジワ手作りしていく感じじゃないか。
当然、柳下さんにも実現したい「理想のサッカー」はある筈だ。が、準備期間が足りない。現実路線を採らざるを得ない。「J1残留」というミッションに最短でアプローチするには、例えばスタメン固定といった徹底がはかられる可能性もある。機会を得る選手、失う選手の明暗が分かれる。それは監督さんが変わるときに必ず起きるようなことだけど、今回はサバイバルミッションだ。ブレるわけにいかない。
僕は柳下さんの練習を見に行ったことがある。札幌時代だ。北海道新聞に野球コラムを執筆している関係で年に何度か札幌に滞在する。で、午前中は大概ヒマなのでぶらっと「宮の下 白い恋人サッカー場」へ午前練を見学に行ったりする。札幌は地下鉄が整備されてて、どこへ行くにもアクセスが容易だ。サクッと行ってサクッと帰って来られる。
「宮の下 白い恋人サッカー場」は練見好きには堪えられないサッカー場だ。スタンド設備が整い、記者はもちろん、サポーターも座って練習を眺められる。それどころかレストランで食事や飲み物を楽しみながら練習が見られるのだ。寒冷地なので芝生の下には電熱線が通っている。最初に見たときは、これはバイエルンミュンヘンかと思った。
何度も行ってる上、別にメモも取らないから練習内容は忘れてしまった。柳下さんの練習か、三浦俊也さんか石崎さんか記憶がごっちゃになっている。が、鮮烈に覚えているのは練習後の記者会見だ。コンサドーレ札幌は練習日にもプレスルームで会見を設定していた。そのとき、柳下さんが記者に強いメッセージを発した。
細かいフレーズは忘れた。大意はこうだ。札幌はファン、サポーターが温かい土地柄で、まだこれからの選手をスター扱いしてしまう。北海道のメディアもちょっと活躍すると大きく取り上げる。選手は温室に入ってるようなもので、すぐのぼせてしまう。
すごくはっきりモノを言う、気骨のある人だぞという印象を持った。不確かな記憶で恐縮だが、自戒の意味も込めてここに記しておきたい。そして、地方クラブで指導歴を重ねた柳下さんの経験値はダテじゃないことをお伝えしたい。土曜日が待ち切れないのだ。
附記1、日本代表の3連戦、とりわけオーストラリア戦は面白かったですね。もう、最後のFK蹴ろうと思ったらタイムアップって意外性まで面白かった。僕は代表の戦い方は新潟にも大いに参考になると思います。攻守のつながりはひとつの理想形に見えました。
2、だけどユーロも始まって本当に忙しいですね。寝れてますか?
3、清水戦は雨が心配ですね。あ、そうそう、気象予報士の知人に教わったんだけど、気象庁HPの週間天気予報に「信頼度」って項目があるの御存知ですか? 例えば14日未明の時点で6月16日・新潟の予報は「くもりのち雨 降水確率50」になっています。で、予報の下に「C」って出ている。これね、気象庁の自信度(彼らの言い方では「予報の確度」)なんです。「A」だったら絶対、「B」はまぁ、そうだと思います、「C」はハズれたらごめんなさい的なニュアンス。この「信頼度」の3段階評価はアウェーの身支度なんかで役立ちますね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
従来の当コラムの流儀に従えば先週のナビスコ連戦(5節6節)について記すべきところだ。が、柳下正明・新監督の就任が正式発表され、「チーム上野」が解体された今、その細部を描くことに積極的な意味を見出し難い。上野展裕代行はユース監督に復任された。クラブ史上の一大事を受けて立ち、ベストを尽くされた上野さんに感謝したい。現場も、プレスの評判も上々の「監督代行」だった。これから僕らはユースチームを以前より熱い気持ちで応援できる。
柳下監督の就任会見の様子をユーチューブで見た。又、質疑応答の再録を神田強化部長のものも含め、モバアルで熟読した。ハラハラしながら待った甲斐がある。いや、もう何というか頼もしいなぁ。「百戦練磨」という言葉が浮かぶ。柳下さんは歴代、新潟を率いた監督さんでダントツのJリーグ指導歴だ。もちろん大方の想像通り、神田部長と東京農大の先輩後輩の間柄、という縁で実現した話だ。言わば「神田人脈の奥の手」だ。
最高の人選だと思う。契約期間は13年1月までということだが、長く見たい監督さんだ。スカウティングと勝負哲学に定評がある。そして情熱の人だ。菊地、大井、藤田と「柳下流」門下生がいるのも面白い。もちろんすぐに結果に結びつくほどサッカーはカンタンじゃないけれど、柳下さんなら粘り強くやり抜くだろう。
就任会見で興味深かったのは「来年もJ1にいること」とミッションを明示したことだ。開幕以来、成績が上がらないなかで「タイトルを狙う」「ACL出場」という目標が宙ぶらりんになっていた。僕はかねて当コラムで新潟もタイトルを狙うべきだと主張し、根本のところでその考えを引っ込めるつもりはないのだけど、状況を考える必要がある。今シーズンは「J1残留」に総力を挙げる年だろう。まだ天皇杯が残っているが、優先順位は明らかに「J1残留」だ。
もしも開幕前に口にした「タイトル」「ACL」がクラブを縛っていたとしたら、それはナンセンスというべきだ。幸いにして新潟は「J1残留」にロックオンした。僕らもそれを肝に銘じよう。これから壮絶なサバイバル戦が始まるのだ。
当たり前のことを言うようだが、J1というステージは何をおいても死守する値打ちがある。特に新潟のような親会社を持たないクラブは尚更だ。J2に降格したらスポンサーフィーをはじめ、様々なことが縮小しかねない。体力のある企業傘下のクラブとは意味が違う。「一度J2に落ちて、じっくりチームを作り直す」は資金力豊富なクラブ(と、そのサポ)にだけ許される台詞なのだ。欧州の信用不安もあって、景気の先行きだって見えない。頼りのスポンサーフィーも心配だ。2012年のこのタイミングで第一優先すべきところはハッキリしている。
僕は監督術には大雑把に言って2つの方向性があると思っている。「戦術に選手を合わせる」と「選手に戦術を合わせる」だ。前者の例はフィリップ・トルシエだろう。十八番にしている戦術を選手に叩き込んでいく。もうナイジェリアを指揮しても南アフリカを指揮しても日本代表を指揮してもフラットスリーだった。Jリーグ監督の常連では三浦俊也さんもこのやり方だ。
に対して「選手に戦術を合わせる」は手持ちの選手の特性から発想する。おそらく柳下さんのアプローチはこっちになるだろう。黒崎、上野という前任者の戦術プランを大枠では引き継ぎながら足りないものをプラスしていく。だからガラッと変わるイメージではなくてジワジワ手作りしていく感じじゃないか。
当然、柳下さんにも実現したい「理想のサッカー」はある筈だ。が、準備期間が足りない。現実路線を採らざるを得ない。「J1残留」というミッションに最短でアプローチするには、例えばスタメン固定といった徹底がはかられる可能性もある。機会を得る選手、失う選手の明暗が分かれる。それは監督さんが変わるときに必ず起きるようなことだけど、今回はサバイバルミッションだ。ブレるわけにいかない。
僕は柳下さんの練習を見に行ったことがある。札幌時代だ。北海道新聞に野球コラムを執筆している関係で年に何度か札幌に滞在する。で、午前中は大概ヒマなのでぶらっと「宮の下 白い恋人サッカー場」へ午前練を見学に行ったりする。札幌は地下鉄が整備されてて、どこへ行くにもアクセスが容易だ。サクッと行ってサクッと帰って来られる。
「宮の下 白い恋人サッカー場」は練見好きには堪えられないサッカー場だ。スタンド設備が整い、記者はもちろん、サポーターも座って練習を眺められる。それどころかレストランで食事や飲み物を楽しみながら練習が見られるのだ。寒冷地なので芝生の下には電熱線が通っている。最初に見たときは、これはバイエルンミュンヘンかと思った。
何度も行ってる上、別にメモも取らないから練習内容は忘れてしまった。柳下さんの練習か、三浦俊也さんか石崎さんか記憶がごっちゃになっている。が、鮮烈に覚えているのは練習後の記者会見だ。コンサドーレ札幌は練習日にもプレスルームで会見を設定していた。そのとき、柳下さんが記者に強いメッセージを発した。
細かいフレーズは忘れた。大意はこうだ。札幌はファン、サポーターが温かい土地柄で、まだこれからの選手をスター扱いしてしまう。北海道のメディアもちょっと活躍すると大きく取り上げる。選手は温室に入ってるようなもので、すぐのぼせてしまう。
すごくはっきりモノを言う、気骨のある人だぞという印象を持った。不確かな記憶で恐縮だが、自戒の意味も込めてここに記しておきたい。そして、地方クラブで指導歴を重ねた柳下さんの経験値はダテじゃないことをお伝えしたい。土曜日が待ち切れないのだ。
附記1、日本代表の3連戦、とりわけオーストラリア戦は面白かったですね。もう、最後のFK蹴ろうと思ったらタイムアップって意外性まで面白かった。僕は代表の戦い方は新潟にも大いに参考になると思います。攻守のつながりはひとつの理想形に見えました。
2、だけどユーロも始まって本当に忙しいですね。寝れてますか?
3、清水戦は雨が心配ですね。あ、そうそう、気象予報士の知人に教わったんだけど、気象庁HPの週間天気予報に「信頼度」って項目があるの御存知ですか? 例えば14日未明の時点で6月16日・新潟の予報は「くもりのち雨 降水確率50」になっています。で、予報の下に「C」って出ている。これね、気象庁の自信度(彼らの言い方では「予報の確度」)なんです。「A」だったら絶対、「B」はまぁ、そうだと思います、「C」はハズれたらごめんなさい的なニュアンス。この「信頼度」の3段階評価はアウェーの身支度なんかで役立ちますね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
