【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第161回
2013/3/14
「積極的な守備」
J1開幕節・C大阪×新潟。
開幕戦はアイスホッケーの最終節とかち合ってしまい、TV観戦だった。長居競技場は風が相当強そうだ。新しいシーズンが始まる。Jリーグは20年め、アルビレックス新潟はJ1に上がって10年めを迎える。3月になったというのに新潟県の天気は雪マークだ。それでも多くのサポーターがアウェーの地へ駆けつけた。みなさん、シーズンあけましておめでとう。新鮮だね、長居の開幕。こう、開幕戦は等々力か味スタってイメージでしょ。
僕はプレシーズンマッチを見ていないから、今年のチームについて完全に初見といっていい。まず気になるのはセンターバック2枚の入れ替えだった。去年、「奇跡の残留劇」を支えた屋台骨。チームのストロングポイント・堅守の要。石川、鈴木大輔が移籍して、この試合は大井、キム・クナンがスタメンを張る。高さは強そうだ。読みや判断はどうだろう。
又、今年のチームは柳下監督がキャンプから仕上げたものだ。どんなサッカーに変貌しているだろう。新加入選手で層の厚みはできた。スタメンを見て驚くのは本間勲の名前がないことだ。ボランチは新外国人、レオ・シルバと三門の2枚。これはよっぽどいい選手なのだろう。おおっと思ったのはFWの先発がブルーノと田中達也、右サイドハーフが成岡。わくわくするね。田中達也はもっとゆっくり状態を作って、暖かくなってから勝負かと思っていた。いきなり来たよ。
試合。これが素晴しかった。僕みたいに初めて見た者はびっくり仰天だ。守備戦術がどえらいチューンアップされている。プレスがすごい。セレッソはボールをつないでビルドアップしてくるチームだから、プレスは非常に有効だ。あと、マンマークにしたんだね。受け渡すときもスムーズだった。セレッソは見る間に混乱していく。縦パスはつぶされ、セカンドボールは新潟にとられる。「サッカーをやらせてもらえない」級だったのじゃないか。
積極的な守備。これが核心だ。サッカーは守備と攻撃が結びついているから、積極的に奪えばすぐ攻めに転じられる。僕の懸念は、この守備が最後までもつかなぁに変わった。後半、動けなくなるとしたら早く得点したい。3点くらい取って試合を決したい。もう、試合は完全に支配下にあった。セレッソは水際で防いでるだけだ。僕は「この時間帯」という考え方をした。この時間帯に決めろ。こう、パチンコで言ったら「チューリップが開いてる」というか「絵柄が揃ってる」みたいなときだ。
そうしたらね、いいことと悪いことが両方あった。悪い方は再三のチャンスを作りながら先制点が奪えなかったことだ。いい方は「この時間帯」じゃなかったことだ。驚くなかれ、ほぼ最後まで試合を通して新潟が圧倒していた。なかなかこんなことってないと思うよ。付け焼刃の戦術だったらどこかに破綻ができる。フィジカルを追い込んでなかったらどこかで脚が止まる。考えてみてください、ずっと「チューリップが開いてる」「絵柄が揃ってる」パチンコというものを。それはゲームスタッツに如実にあらわれている。シュート数、セレッソ10に対して新潟15。CK、セレッソ2に対して新潟6。圧巻はGKの数だ、セレッソ15に対して新潟4。
それだけ圧倒した試合が無得点に終わったということは、攻撃に芸がなかったようだけど、僕は面白かった。まぁ、これは見ていて下さい。これからグングン良くなると思う。何しろまず書いておかなきゃいけないことは、田中達也がバツグンだったことだ。春先から状態いいなぁ。僕は新潟はエースストライカーを持ったのだと思う。この試合に関しては少し気負いが感じられたが、こりゃ活躍しない方がおかしい。楽しみだねぇ。あと、堅碁や武蔵には生きたお手本になるだろう。セイローへ行く人は顔見たら1シーズン言い続けてよ。達也の動きを盗め。間違いなく一生の財産になるよ。
攻撃はカンタンに言うと「化学変化前」なんだね。チームの方向性がハッキリあって、細部の呼吸はこれから合わせていく。というか必然的にわかりあって有機的なものになる。僕は点取れるチームに変わっていくと思うな。まぁ、それにしても3、4点取れててもおかしくない試合だったけどね。
レオ・シルバはなるほどいいなぁ。強化部は眼が確かだ。動けて、読みもあって万能型だね。これからもっと得点にからんでくるシーンが増えるだろう。成岡はもっとやれる。彼はこのサッカーにアジャストすることで、もっといい選手になれると思う。いや、負けた試合なのにいいところばっかり目につくなぁ。この試合で顕在化しなかったものも含めて「13年アルビレックス」は楽しみが実に多い。
では、負けの現実に目を向けよう。後半43分だ。交代出場の扇原がDFのウラへパスを通す。柿谷が抜け出して右足アウトにかけたループシュート。これが決勝点。敵将・クルピ監督としたら杉本投入も含め、交代策がピタリと当たった。終始ロープを背負ってたボクサーがワンパンチ当てた感じだ。といってこの決勝ゴールは見事だった。セレッソ下部組織からわかりあってる選手がその粋を見せた格好。0対1。新潟は敗戦からスタートすることになった。
が、僕はいい薬だと思っている。開幕戦は強い印象をチームに残すだろう。教訓はふたつある。得点機に決めないと全てを失う。新潟が去年のような苦しいシーズンを過ごさないためには得点が必要だ。サッカーはスタッツではなく、スコアで勝敗を決する。そして、0対1のスコアは得点力が依然として課題であることを物語る。
もうひとつは危機管理の意識だ。最初に書いたセンターバック2枚の採点は文句なく合格点だ。何度かロングパスを狙われたが、しっかり対応していた。が、合格点なのに負けたのだ。これはセンターバックだけに責任があることではない。あれをやられちゃ仕方ないというファインゴールでもあった。そりゃそうなんだけど、GK・黒河も含め、気持ちはおさまらないだろう。こういうのは早いうちに痛い目を見ていた方が、勝負どころで生かせたりする。肝心なのは悔しさを忘れないことだ。この試合負けて悔しくなかったらどうかしてるでしょ。
附記1、正確に記しておくと、この日、アイスバックスは東京でナイター試合だから家で生中継見れる筈だったんですよね。そうしたらOKしていた『週刊ポスト』の座談会が土曜13時になっちゃって、キックオフ時刻くらいは松尾貴史さんにめっちゃ笑わされてたと思います。
2、どうやって聴いたかは内緒ですけど、FMポート土曜朝ワイド「アルビフリーク」9時台の新企画「きくっちFC」よかったですね~。編集もサクサクつないでて秀逸だった。当の菊地選手は開幕戦、交代出場でした。短い時間でも絶対仕事をしてやろうという意思が見えた。
3、次節、ホーム開幕戦はもちろん参戦です。王者・広島相手にどうなるかなぁ。あと、今回は1泊2日予定なんでシネ・ウインドで映画見たいなと思うんですよ。シネ・ウインドは支配人の井上さんに去年、TBSラジオに電話出演してもらって、「映画館のデジタル化」問題やったんですよね。急速なデジタル化が首都圏でもミニシアター、名画座を悩ませていて、新たに設備投資するとなると大金がかかるんだね。シネ・ウインドはそれを市民の募金で乗り切ろうとユニークな挑戦を始めた。僕はオルタナティブな映画館があるのは街の財産だと思いますよ。あ、オルタナティブっていうのは「独立した」「自主的な」って意味ですね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

J1開幕節・C大阪×新潟。
開幕戦はアイスホッケーの最終節とかち合ってしまい、TV観戦だった。長居競技場は風が相当強そうだ。新しいシーズンが始まる。Jリーグは20年め、アルビレックス新潟はJ1に上がって10年めを迎える。3月になったというのに新潟県の天気は雪マークだ。それでも多くのサポーターがアウェーの地へ駆けつけた。みなさん、シーズンあけましておめでとう。新鮮だね、長居の開幕。こう、開幕戦は等々力か味スタってイメージでしょ。
僕はプレシーズンマッチを見ていないから、今年のチームについて完全に初見といっていい。まず気になるのはセンターバック2枚の入れ替えだった。去年、「奇跡の残留劇」を支えた屋台骨。チームのストロングポイント・堅守の要。石川、鈴木大輔が移籍して、この試合は大井、キム・クナンがスタメンを張る。高さは強そうだ。読みや判断はどうだろう。
又、今年のチームは柳下監督がキャンプから仕上げたものだ。どんなサッカーに変貌しているだろう。新加入選手で層の厚みはできた。スタメンを見て驚くのは本間勲の名前がないことだ。ボランチは新外国人、レオ・シルバと三門の2枚。これはよっぽどいい選手なのだろう。おおっと思ったのはFWの先発がブルーノと田中達也、右サイドハーフが成岡。わくわくするね。田中達也はもっとゆっくり状態を作って、暖かくなってから勝負かと思っていた。いきなり来たよ。
試合。これが素晴しかった。僕みたいに初めて見た者はびっくり仰天だ。守備戦術がどえらいチューンアップされている。プレスがすごい。セレッソはボールをつないでビルドアップしてくるチームだから、プレスは非常に有効だ。あと、マンマークにしたんだね。受け渡すときもスムーズだった。セレッソは見る間に混乱していく。縦パスはつぶされ、セカンドボールは新潟にとられる。「サッカーをやらせてもらえない」級だったのじゃないか。
積極的な守備。これが核心だ。サッカーは守備と攻撃が結びついているから、積極的に奪えばすぐ攻めに転じられる。僕の懸念は、この守備が最後までもつかなぁに変わった。後半、動けなくなるとしたら早く得点したい。3点くらい取って試合を決したい。もう、試合は完全に支配下にあった。セレッソは水際で防いでるだけだ。僕は「この時間帯」という考え方をした。この時間帯に決めろ。こう、パチンコで言ったら「チューリップが開いてる」というか「絵柄が揃ってる」みたいなときだ。
そうしたらね、いいことと悪いことが両方あった。悪い方は再三のチャンスを作りながら先制点が奪えなかったことだ。いい方は「この時間帯」じゃなかったことだ。驚くなかれ、ほぼ最後まで試合を通して新潟が圧倒していた。なかなかこんなことってないと思うよ。付け焼刃の戦術だったらどこかに破綻ができる。フィジカルを追い込んでなかったらどこかで脚が止まる。考えてみてください、ずっと「チューリップが開いてる」「絵柄が揃ってる」パチンコというものを。それはゲームスタッツに如実にあらわれている。シュート数、セレッソ10に対して新潟15。CK、セレッソ2に対して新潟6。圧巻はGKの数だ、セレッソ15に対して新潟4。
それだけ圧倒した試合が無得点に終わったということは、攻撃に芸がなかったようだけど、僕は面白かった。まぁ、これは見ていて下さい。これからグングン良くなると思う。何しろまず書いておかなきゃいけないことは、田中達也がバツグンだったことだ。春先から状態いいなぁ。僕は新潟はエースストライカーを持ったのだと思う。この試合に関しては少し気負いが感じられたが、こりゃ活躍しない方がおかしい。楽しみだねぇ。あと、堅碁や武蔵には生きたお手本になるだろう。セイローへ行く人は顔見たら1シーズン言い続けてよ。達也の動きを盗め。間違いなく一生の財産になるよ。
攻撃はカンタンに言うと「化学変化前」なんだね。チームの方向性がハッキリあって、細部の呼吸はこれから合わせていく。というか必然的にわかりあって有機的なものになる。僕は点取れるチームに変わっていくと思うな。まぁ、それにしても3、4点取れててもおかしくない試合だったけどね。
レオ・シルバはなるほどいいなぁ。強化部は眼が確かだ。動けて、読みもあって万能型だね。これからもっと得点にからんでくるシーンが増えるだろう。成岡はもっとやれる。彼はこのサッカーにアジャストすることで、もっといい選手になれると思う。いや、負けた試合なのにいいところばっかり目につくなぁ。この試合で顕在化しなかったものも含めて「13年アルビレックス」は楽しみが実に多い。
では、負けの現実に目を向けよう。後半43分だ。交代出場の扇原がDFのウラへパスを通す。柿谷が抜け出して右足アウトにかけたループシュート。これが決勝点。敵将・クルピ監督としたら杉本投入も含め、交代策がピタリと当たった。終始ロープを背負ってたボクサーがワンパンチ当てた感じだ。といってこの決勝ゴールは見事だった。セレッソ下部組織からわかりあってる選手がその粋を見せた格好。0対1。新潟は敗戦からスタートすることになった。
が、僕はいい薬だと思っている。開幕戦は強い印象をチームに残すだろう。教訓はふたつある。得点機に決めないと全てを失う。新潟が去年のような苦しいシーズンを過ごさないためには得点が必要だ。サッカーはスタッツではなく、スコアで勝敗を決する。そして、0対1のスコアは得点力が依然として課題であることを物語る。
もうひとつは危機管理の意識だ。最初に書いたセンターバック2枚の採点は文句なく合格点だ。何度かロングパスを狙われたが、しっかり対応していた。が、合格点なのに負けたのだ。これはセンターバックだけに責任があることではない。あれをやられちゃ仕方ないというファインゴールでもあった。そりゃそうなんだけど、GK・黒河も含め、気持ちはおさまらないだろう。こういうのは早いうちに痛い目を見ていた方が、勝負どころで生かせたりする。肝心なのは悔しさを忘れないことだ。この試合負けて悔しくなかったらどうかしてるでしょ。
附記1、正確に記しておくと、この日、アイスバックスは東京でナイター試合だから家で生中継見れる筈だったんですよね。そうしたらOKしていた『週刊ポスト』の座談会が土曜13時になっちゃって、キックオフ時刻くらいは松尾貴史さんにめっちゃ笑わされてたと思います。
2、どうやって聴いたかは内緒ですけど、FMポート土曜朝ワイド「アルビフリーク」9時台の新企画「きくっちFC」よかったですね~。編集もサクサクつないでて秀逸だった。当の菊地選手は開幕戦、交代出場でした。短い時間でも絶対仕事をしてやろうという意思が見えた。
3、次節、ホーム開幕戦はもちろん参戦です。王者・広島相手にどうなるかなぁ。あと、今回は1泊2日予定なんでシネ・ウインドで映画見たいなと思うんですよ。シネ・ウインドは支配人の井上さんに去年、TBSラジオに電話出演してもらって、「映画館のデジタル化」問題やったんですよね。急速なデジタル化が首都圏でもミニシアター、名画座を悩ませていて、新たに設備投資するとなると大金がかかるんだね。シネ・ウインドはそれを市民の募金で乗り切ろうとユニークな挑戦を始めた。僕はオルタナティブな映画館があるのは街の財産だと思いますよ。あ、オルタナティブっていうのは「独立した」「自主的な」って意味ですね。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動が覚める前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
