【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第187回

2013/9/12
「ハードワーク」

 J1第23節、新潟×磐田。
 当日はプロ野球のラジオ中継ゲストとして札幌ドーム入りしていた。本番中はケータイを切るから、当然、速報の類は見られない。オンエアが終わってプレスルームに引き上げたとき、コーラの自販機のところで「フタを開ける」のが楽しみだった。アルビ勝ったかな? これはなかなか複雑な味わいなのだ。周囲にアルビレックス新潟の勝敗を気にしてるメディア関係者はひとりもいない。皆、例えば北海道日本ハムファイターズの「残塁の山」を問題にしていたりする。

 で、ケータイを起こしたら勝っていた。ホーム4連勝だ。スコアも派手で4対2。おお、これ川崎戦に続いて逆転勝ちだ。野球のごひいきチーム、ファイターズが1点差ゲームで連敗してガックリ来てたから、大変気が晴れたのだ。翌朝、知人からのメールで新潟日報スポーツ面が「新潟倍返し 10位に浮上」の見出しを掲げたことを知る。人気ドラマ『半沢直樹』(TBS系)ばりじゃないか。これはもう、皆さんノリノリと判断して間違いないな。

 帰京したのは30日(金)。家に着いて毛ガニとコマイを冷蔵庫に入れて、シャワーを浴びたらソッコー録画再生だ。ちなみにその晩は宇都宮市のホテルで日光アイスバックスの開幕直前フェイスオフ・パーティー。色々忙しくなってまいりました。秋からは日光霧降アイスアリーナのコーヒー自販機のあたりで、ケータイ速報を確認する日々が始まるのか。

 で、試合なんだけどこれがなかなかのもんだった。前半、PKにはじまって前田遼一に2点決められるんだ。磐田って昨シーズン、監督交代のきっかけをもたらしたチームでしょう。去年のあの時期、先に2点取られたらもう、ちょっときびしい感じだったと思う。だけどね、2失点してもチームが落ち着いてるんだよ。必ず盛り返せると自信持ってる。これは大変なことだよ。いつのまにか新潟はそこまでチームとして「進化」していた。

 あ、拙著『サッカー茶柱観測所』(駒草出版)を読んでくれた方がいたら、「進化」って表現を僕が嫌ってるのをご存知かと思う。安直な決まり文句だと思い、普段は使わないようしている。だけど、この試合の姿は「成長」では足りないな。「先に2失点してもあわてない」が実現するためには、得点力に自信があって、かつ後半の運動量に自信がなきゃならない。チームにも監督采配にも、高水準の信頼と理解が必要だ。相当いいチームだけに可能なんだよ、「先に2失点してもあわてない」なんて。それをあっさり実現したからね。

 後半、早い時間に川又堅碁が2ゴール返す。磐田に前田がいるなら新潟にはケンゴがいる。これはエースの仕事だったねぇ。チームを勇気づけ、勝利へ導く仕事。完全にスタジアムの雰囲気が変わる。スタンドはイケイケ状態、選手らは元気いっぱい。決勝弾は三門雄大だった。スカパー解説の小林慶行さんが「三門のゴールを見たい」と言った直後だった。小林慶行さん、これからもちょくちょく色んな選手のゴールを見たがって下さい。しっかし、三門ゴールのときのビッグスワンは爆発してたね。

 で、ダメ押しに新加入のホージェル・ガウーショまでゴールを決めてしまった。ホージェルはまだチームで浮いてる感じだけど、結果が自信をもたらすってこともある。もう、文句ないです。よくまぁ、前節から中3日でこんなに動けるね。


 J1第24節、浦和×新潟。
 更に中2日で迎えた敵地の浦和戦。埼スタ暑い。今年は「暑さ最高峰」の甲府戦があったけど、今日もキックオフ(18時過ぎ)の段階で32℃もある。もう日程組んじゃってどうにもなんなかったんだと思うけど、何でこんな猛暑の年の8月最終週、3試合やるのかなぁと愚痴のひとつも言いたくなる。9月以降は(カップ戦を除けば)残り10試合しかないんですよ。開場前の待機列を見てまわったが、直射日光に焼かれるサポが不憫だった。まぁ、僕も北海道帰りだから参った。札幌市は朝晩、20℃切ってたもんな。

 といって新潟は(比較的涼しいホームで戦えたという「地の利」もあるけれど)その猛暑の夏に絶好調なのだ。今日ももしかしたら暑いほうが有利なのかもしれない。チームの基礎体力、馬力のようなものは絶対、新潟に分がある。浦和は監督自ら連戦が苦手だと公言しており、この日も蒸し暑さを警戒してかピッチに水を撒かなかった。また前節・横浜FM戦はプレス責めにあってパスを分断され、完敗を喫している(横浜FM・樋口靖洋監督のコメント「キーワードはつながせない、ということです。つなぎたいチームがつなげなかったらおそらくイライラしてくる。そこを徹底して、特にゴールキック、キーパーボール、バックパスもキーパーがつなごうとしてくるんで、そこを前から行こうということでしたね」)。読者よ、これをやらせたら横浜FMより断然ウチだろう。僕は超楽しみにしていたのだ。中2日じゃ浦和さん、身体を戻すのがやっとで戦術的修正には手がつけられないよ。

 だから、ついに鬼門突破の機は熟したかと思ったんだね。役者も揃ってる。なかでも田中達也が初めて「敵地・埼スタ」へ乗り込む試合っていうのは特にポイント高いんじゃないかな。試合は入りこそ浦和ペースだったけど、次第にアラが目立って来る。膠着したまま、時間が経過していった。新潟はさすがに両FWを筆頭に疲れが見える。ケンゴはここ最近ではいちばんキレがなかったし、達也はガス欠になるまで全力で動き回って早々と交代した。

 0-0のまま後半へ突入、これは「後半に強い新潟」にとっては望むところだ。浦和は交代カードを切って勝負に出てくる。浦和のストロングポイントは選手層の厚さだ。リザーブに元代表級がズラッと揃ってる。さぁ、ここから面白いところだぞ。ハードワークが勝つか、個のタレントが勝つか。

 そしたら面白くないことになっちゃったんだね~。一瞬だ。後半17分、柏木のパスに興梠慎三がDFウラへ抜ける。あの瞬間だけエアポケットのようにマークを離したんだ。興梠ゴールが決勝点。ほぼ互角にやり合って、勝機も充分あっただけに残念無念。

 僕はせめて磐田戦のコンデションでやらせたかったなぁと無いものねだりをする。やっぱり疲れてたよ。あと一歩だった。その一歩の差が埋められなくて埼スタで浦和相手に1勝もできてないんだが、今日は先方もヒヤヒヤだったと思う。浦和は特に守りが危なっかしい。それでも最後は「4万人の大声援」を受けて勝ち切ってみせた。浦和サポは夏休み最後の「宿題」として、4万人動員を呼びかけたのだった。これはある意味、彼らの有言実行がもたらした勝利でもある。「鬼門・埼スタ」が鬼門である由縁を見たんだな。


附記1、今週の天皇杯2回戦・新潟経営大戦は残ってた青春18キップを使い切る旅です。早朝、上野を出て昼前に新潟駅到着。試合後は散歩道単行本(今年もやります!)用の対談収録&飲み会。で、一泊して翌朝も早立ち、磐越西線で福島を目指します。福島県立美術館で若冲見ようと思うんだな。

2、「由縁を見たんだな」「若冲見ようと思うんだな」、文体が何故か裸の大将ですね。お、お母さんが交番へ行って親切なおまわりさんに、お、おにぎりをもらいなさいって言ったんだな。

3、竜巻突風や集中豪雨の被害が続いてますね。何か僕は埼玉県越谷市の知人、栃木県矢板市の知人に連日、竜巻大丈夫かメールを送る一方、岐阜県大垣市の旧友に大雨どうですかメールを送ったりしている。そういえば島根県松江市の元担当編集者にも2ヶ月連続で大雨どうなのよメールを送ったな。今月は松江に遊びに行く計画確定。し、宍道湖でしじみ汁を飲むんだな。 


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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