【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第202回

2014/3/13
 「どこまでも行こう」

 J1開幕節、仙台×新潟。
 今年は開幕戦から「バカマイレージ」の荒稼ぎを目論んだ。「バカマイレージ」はかねて僕が個人的に提唱している概念上のマイレージポイントで、バカ的な移動やアウェー観戦等を経験するほど貯まっていくとされる。今回は春の青春18きっぷだ。理論的には可能であるはずの仙台日帰りにトライしてみた。

 当日のアイフォンのカレンダー欄を見ると感心するんだけど、朝5時7分南千住駅発、7時間38分かけて12時45分泉中央着(7回のりかえ)である。で、4時間弱ユアスタに滞在して、16時34分泉中央発、今度は7時間23分かけて23時57分に南千住に帰着している。人生でいちばん長く電車に乗った。一日24時間しかないうちの15時間弱電車に揺られ、『渡邉恒夫 メディアと権力』(魚住昭・著、講談社文庫)読んでるか居眠りしてるかの二択だった。そりゃ読み終わりましたとも。トータルの交通費は仙台市地下鉄分を合わせても3千円を切る。この金額に関してライターの北尾トロさんは「もう、高速バスでさえ比較対象にならない。比べるとしたら徒歩かマラソン」と評した。

 もちろん「バカマイレージ」は航空会社のマイレージポイントじゃないから海外旅行には使えない。が、僕は敢えて言いたい。貯めた「バカマイレージ」は来年、ACLで使うつもりだ。2014年シーズンあけましておめでとうございます。読者の皆さん、サッカーと暮らす日々が帰ってきたよ!

 ユアスタは晴れ。両軍サポが顔を輝かせてスタジアムへ向かう。僕は開幕戦へ向かう人の列を眺めるのが大好きだ。全員が幸福そうだ。全員が期待感でいっぱい。この後、2時間くらい経ったらどっちか一方がむしゃくしゃしたり、肩を落としたりして同じ道を戻ってくるのだろう。 まぁ、稀に両方ともむしゃくしゃって場合もあるか。だけどね、開幕前のひととき、スタジアムへ向かう道は幸福感だけにつつまれるんだよ。

 仙台は前身のブランメル仙台から数えて創立20周年の節目のシーズンだそうだ。グラハム・アーノルド新監督を迎えて、ポジティブな雰囲気にある。この試合の注目はスタメンGKを務める関憲太郎、それからマグリンチィ、二見宏志の新顔組だな。マグリンチィ、舞行龍ジェームズと「ニュージーランド出身選手」がピッチに2人いるって状態が新鮮だ。翌週に控えた親善試合、日本×ニュージーランド(2011年両国に起きた地震の影響で中止されていた)が大いに楽しみになる。二見はロングスローで存在感を見せた。あと関だけど高校時代のプレーを覚えてるなぁ。『サッカーマガジン』に前橋育英→国見と転校したドラマ性について書いた。身長に恵まれないのによくここまで来たよ。再会が嬉しかった。

 新潟もキーパーが新顔だ。守田達弥は関とは対照的に191センチと身長に恵まれたGKらしいGK。東口順昭の抜けた穴は小さくないけれど、僕は最高の補強ができたと思っている。もうひとり、オフ期間に抜けた主力選手は三門雄大だ。サイドバックのポジションは新加入の松原健と川口尚紀の「U‐21代表」コンビが争う形となった。ヒガシ、ミカ以外のとこは去年のベストチームがそのまま持ち越しだ。といって字句通り「そのまま持ち越し」じゃないんだな。上積みも競争もちゃんとある。

 こと開幕戦にかぎっては直前、新戦力のソン・ジュフン(U‐22韓国代表)がインフルエンザにかかったため、CBを舞行龍に戻し、舞行龍が入る予定だったボランチの一角に成岡翔、成岡が入る予定だったサイドハーフに岡本英也と、玉突き的にポジションが変更された。が、よく考えればそれはすなわち「昨シーズン後半の強いアルビ」の布陣じゃないか。このひとつを取っても今季の新潟がどれだけ面白いかわかるだろう。とてつもないでしょう。あのチームに上積みしようとして、アクシデントがあったから元に戻した(!)。

 試合が始まって開幕戦の緊張感なのか何なのか、新潟の選手が重く鈍く見えてしょうがなかった。シーズン頭から疲れて身体が重いわけない。何だろうなぁ、仙台の新布陣4‐2‐3‐1に戸惑ってるのか(といってリャン・ヨンギはほぼ2トップといっていいぐらい高い位置でプレーしていた)。それとも単にエンジンがかからず、リズムが出ないのか。

 などと言ってる間に川又堅碁が痛んでしまった。大丈夫か、俺は「わっしょいわっしょい」の「わ」くらいのとこまで口から出かかってるんだぞと思って見てたら、何とNGが出る。前半25分、川又OUT、鈴木武蔵IN。波乱の開幕だ。ピッチからエースが消えてしまった。

 前半、いいなぁと思ったのは今季から10番を背負った田中亜土夢だ。再三、好機をつくっていた。前半39分、右サイドから持ち上がり、亜土夢→松原へパス、松原がいったん持ち替え、左足でクロスを入れる。これが仙台・角田誠の手に当たりPKゲット! アルビレックス新潟、今季初得点はレオ・シルバのPKゴールだった。

 で、笑ったのは記者席に配られた柳下正明監督のハーフタイムコメントだな。3項目あって「守備はマークをはっきりと。責任を持ってやろう」「攻撃は相手の背後を狙っていくこと」と、もうひとつ「まだ緊張しているやつがいる。思い切ってミスを恐れず。あと45分だ」。僕はヤンツーさんが好きだな。いいハッパをかけるよ。

 だけど後半早々、またも波乱がチームを襲うんだ。今度は守備の要・舞行龍が痛んでしまった。後半4分、舞行龍OUT、大野和成IN。このときだな、あぁ、そうか湘南のレギュラーが控えにいるのかと心強く思ったのは。ただ同7分には失点を喫する。これはね、GK守田が6秒ルールを取られ、間接FKを与えた流れからだった。得点者は富田晋伍。この時間がいちばん嫌な流れだった。守田は反省材料だよ。

 後半、チームを牽引したのはレオ・シルバだった。もうね、背中が「大丈夫だ、自分らのサッカーを貫こう」と語ってた。中盤で徹底的に戦う。新潟の奪うサッカーが出現する。それにしても、この日、レオはアメージングだったよ。敵MFとやり合って一歩も引かない。それどころか8の字を描いて、蜂が襲いかかるようにボールを奪取する。あと、自陣でウイルソンがシュートに行ったとき、後ろから奪って空振りさせたのはマジックだった。レオは手品師だよね。敵の目前でボールを消してしまう。

 後半は新潟ペースになった。これはすごいと思う。敵地で、エース&守備の要が消えて、うちのゲームになってる。これまでだったら追いつかれてドロー上等だろう。「アクシデントが重なって、なおも勝ち点1を持ち帰った」くらいの話になってる。僕は勝ってくれなきゃつまんないと思った。2014年シーズン、新潟が目標とするのはそういうもんだ。

 後半44分、ヤンツーさん3枚めの交代カードが当たる。田中達也に代わったホージェル・ガウーショが(この日、すごくいい感じで、やっぱりキャンプからやってると違うなと感心してたのだが)、レオのパスを受け、中央へドリブルで持ち込む。で、左足を振り抜くとこれがドカーンって感じのスーパーゴール! ユアスタは静まり返り、新潟サポの「うわあああぁ!」という歓声だけがこだます。

 上々の開幕戦だった。結果が出て、反省点も明確。報道によればケンゴ、マイケルもどうにか復帰できそうだ。何より自分らのやり方に感触をつかんだ。読者よ、このチームとどこまでも行けるとこまで行こう。このチームと夢を見よう。最高しびれるシーズンが始まったよ。


附記1、シーズンまたいで6連勝の新記録スタートですね。ホーム連勝記録もあわせてどんどん伸ばしていきたいですね。ガンバ戦はもちろん参戦します。もう、「わっしょいわっしょい!」の「わ」が口から出かかっています。

2、藤田征也選手の期限付き移籍発表にはちょっと驚きましたね。まぁ、湘南のチーム事情あっての話だし、困ってるときはお互い様ってところでしょうか。

3、すごくサブカルな告知をひとつ。3月10日、19時からリエゾンカフェ(渋谷区宇田川町10‐1パークビル4F、TEL03‐6416‐1635)にて「ポップカルチャーの散歩道」と題したトークライブに出演します。ご一緒するのは20年来のつき合いになる音楽評論家・篠原章さん。間違いなく僕のいちばんコアな部分が引き出されるはずです。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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