【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第203回

2014/3/20
  「ポジティブな負け」

 J1第2節、新潟×G大阪。
 「デンカビッグスワン」である。天気予報は雪マークだったが、青空が覗いた。但し、鳥屋野潟は強風が吹きつける。ウインドブレーカー姿のボランティアさんが気の毒だった。新しいスタジアム名で迎える今季ホーム開幕戦だ。3月8日という日程を思えば2万3千人弱の観客も寒さは織り込んでいただろう。ちなみに僕はホカロンで完全武装していたが、ハーフタイム、ボランティアさんの顔色が悪くなってきたのを見てベリベリッとはがして3人ほどに渡してみた。

 新潟のスタメンは開幕節とほぼ同じ。CBの舞行龍だけが大事をとって大野和成に変わっている。脳しんとうはスポーツ医学の最新の知見によって慎重にケアするようになった。僕が見知ってるアイスホッケーの世界もひと昔前は「軽い脳しんとうらしいよ」くらいの言い方が日常的だった。が、脳しんとうは(例え試合後、当の選手がどれだけ元気そうに見えても)重大なダメージであり、もういっぺん同じことをしたら深刻な事態になり得る。舞行龍は休ませる。これは選択肢なしだ。

 が、負傷明けの川又堅碁、韓国代表戦帰りのキム・ジンスがスタメンに名を連ねたのは嬉しい。単純にホーム開幕戦というだけでなく、ガンバ戦は大いに楽しみだ。まぁ、ひとつのファクターが敵GKの東口順昭(!)であることは否定しない。これはもう、双方にドラマがある。試合前、両軍GKがピッチでウォームアップを開始したところから、感情のさざ波めいたものがスタンドを走る。

 それからやっぱり面白いなと思った対比は「12年シーズン最終節の明暗」だ。両軍が相見(あいまみ)えるのは2年ぶりということになる。一昨年の明暗がコースを分けた。片や柳下サッカーを浸透させ、J1上位で勝負できるチームをつくった新潟、片や長谷川健太監督を迎え、J2のガンバ包囲網を突破し、見事1年で復帰してきたガンバ。今、戦うとどういうサッカーになるのだろう。という意味ではケンゴ&ジンスは出てもらわないとな。

 試合。始まってありゃりゃりゃと驚いた。超攻撃的なのが新潟。前めで奪ってプレッシャーをかけ続けるのが新潟。ポゼッション握って崩しにかかるのが新潟。守戦に耐え、ガマンのサッカーなのがガンバ。以前と役どころが逆になっている。このカードで「攻撃的新潟、守備的ガンバ」の構図を見るとはねぇ。新潟はほぼ思い描いた通りのサッカーがやれてたんじゃないかな。前半早い時間に先取点が奪えれば(12分、大野和成のシュートとかね)ワンサイドゲームもあり得たと思う。が、それができなかった。

 ガンバが「ガマンして、前半0‐0でしのぐ」んだよ。これはホント、以前だったら新潟のゲームプランみたいだ。僕はどっちなんだろうと考えた。新潟は攻めてるのか攻めさせられてるのか。新潟は持ってるのか持たされてるのか。鈴木淳監督の頃、山形と試合すると大概、往生したでしょ。引いて守られると打開力がない。相手が出てきてくれないとショートカウンターが発動しないんだ。あぁいう感じになってるのかな?

 前半は内容の上では圧倒していた。再三、好機をつくった。特にいい感じだったのは41分、ダイレクトパスをつないで田中達也のシュートにつなげた形だな。僕はガンバがわざとやらせてるにしては危なっかしいと思った。そもそもこっちには田中達也や川又堅碁がいる。泥臭く突っ込んでいって、ひと勝負するタイプがいる。点が入るのは時間の問題じゃないか。

 そうしたら後半、2失点して負けちゃったね(得点者・岩下敬輔、大森晃太郎)。特に1点めが効いた。後半24分、遠藤保仁のFKから岩下ヘッド。遠藤は足首が完調ではなく、だましだましやってる状態だった。それでも大事なポイントでこういう大仕事をする。ドンピシャのFKで試合の流れを変えた。

 だから、サッカーの内容で負けたとは思ってない。ニュアンスは「横浜FMに負けた試合」に近い。ベテランの勝負強さとか技術の高さとか、そういう部分に屈したとは言えるだろうね。まぁ、しかし、こういうのは結果だからね。ひとつ違っていれば見え方も変わっていたよ。

 試合後の会見で「セットプレーの精度」について訊かれた柳下正明監督が「このまま続けていくしかない。うちに遠藤がいたら点は取れている。一番はキッカーの質」とコメントして、文字面だけ見ると遠藤がいないのを嘆いているようにも取れる。が、そういうニュアンスではなかった。口にされてたのは、迷いなく継続していくという意思だ。

 大体、この試合は攻め込んでCKが取れたから、得点機がCKから何度も生まれた。前半、こぼれ球がケンゴのとこへ行ったやつとか、あとケンゴが落として、ファーにいた田中達也の前へ転がったやつとか、決まっていてもぜんぜんおかしくないでしょ。そうしたら試合の見え方変わってたよ。

 僕も「迷いなく継続していく」でいいと思う。連勝記録が止まったのは残念だけど、新潟は勝負強さのほうを向かず、今は自分らのサッカーを伸ばしていけばいい。「成長期のチーム」はそれでいいんだよ。この試合は「決めるときに決めておかなきゃ…」的な総括をしても意味ない。そんなの当たり前の話だしなぁ。次の試合、これに輪をかけた「新潟スタイル」でいこうよ。チャレンジチャレンジ!


附記1、ただまぁ、負け試合ファイル1に「ガンバ大阪・守戦で来て、カウンター狙い&セットプレー勝負」を書き留めておきましょう。今に見とれ。必ずいつか打開するもんね。

2、試合翌日、この際だから白鳥ウォッチングしようと思って瓢湖へ行きました。もう暖かくなって主力は旅立った後でしたね。ま、のんびり屋さん(?)が270羽残ってた。水原の町は初めて歩いたけど、本町商店街の「高沢マント店」っていう洋品店がよかったなぁ。昔からの電気屋さんが「○○ラジオ店」を名乗るケースがあるでしょ。あれに似てる。戦前からやってる店なんかなぁ。

3、「アルビレオ新潟」設立、W杯新潟開催、ビッグスワン建設事業等々に尽力された澤村哲郎氏(新潟県サッカー協会会長、元日本サッカー協会理事)のご逝去を悼み、謹んでお悔やみを申し上げます。


えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。

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