【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第209回
2014/5/1
「上を目指すには」
J1第8節、新潟×広島。
この日は皇后盃・全日本女子柔道選手権の取材で横浜文化体育館に午前中から詰めていた。柔道の現場は生涯で2度めじゃないか。事前に取材申請をしておいて、当日、受付で報道パスをもらうのだが、パスに何と「お弁当引換券」がついていた(!)。報道控え室の係のおねえさんに「宮内庁御用達 青山」謹製の唐揚げ弁当&お茶のブリックパックをいただく。なかなかお弁当出してくれる現場はサッカーにはないなぁ。僕の知ってる範囲ではジェフ市原時代、臨海競技場のプレスルームでおにぎりを用意してくれてたのが唯一のケースだね。
で、お弁当云々が書きたいんじゃなくて、話は何かというと全日本女子柔道選手権のNHK中継だ。当日は16時から準々決勝以降の生中継が組まれていた。当然、録画して、後で確認したんだけどね、これがじゃんじゃん映り込んでる。記者席がスタンドじゃなく、体育館フロアの長テーブル&パイプ椅子ってところがミソだなぁ。試合のインターバルで記者席方向へカメラがパーンすると、紺ブレ姿の僕がほぼ100パー、ケータイ速報をにらんでいる。デンカビッグスワンでスコアがぜんぜん動かない。ヤキモキしている。つまり、証拠映像が残ってしまったのだ。
お弁当まで出してもらって記者モラル0点とお叱りを受けそうだが、もちろん試合中はケータイは見ない。スポナビ速報がケータイ画面に出してあって、「組み際の右小外刈り技ありで、合わせて一本!」的な瞬間にサッと視線を走らせる。と、0対0だ。おっかしいなぁ。サンフレッチェ広島は敵地のACL第5戦・北京国安戦から中3日でへろへろじゃないのか。
結局、ビッグスワンはスコアレスドローでタイムアップ。うーん、また負けなかったけど、皆、フラストレーションたまったろうなぁと想像する。今季、新潟は得点も失点もめちゃめちゃ少ない。まぁ、カンタンに言うとスコアレスドローの試合が多いんだよね。横浜文化体育館のほうは山部佳苗選手(ミキハウス)が鮮やかな払い腰一本で優勝を決めた。こういうスッキリした決着が望ましいのだ。
帰宅後、NHK柔道中継の映り込みに頭をかいた後、さっそく広島戦を録画観戦する。面白い試合なんだけど、勝たなきゃいけないなぁ。両チームとも中3日だが、新潟はナビスコ甲府戦&広島戦とビッグスワン連戦だ。対して広島は北京、新潟とアウェー連戦。そりゃ後半、運動量落ちますよ。結局、広島の放ったシュートはたった1本(新潟は12本)。3対0くらいで葬り去っていいくらい、コンディションに差があった。
まぁ、当たりさわりのないことを言うようだけど、まず思ったのは広島のガマンがきいた試合だなぁということ。2連覇中のディフェンディングチャンピオンはタフだ。この試合は後半のどこかの時点でドロー狙いに切り替えたと思うんだよね。粘って勝ち点1上等。で、それが実行できるチームなんだ。日テレG+のACL中継を見てると、不可解な判定や危険なプレーにも驚くんだけど、たまにモンスター級の選手がいるんだよね。北京国安のホフレ・ゲロン(エクアドル代表選手)が強烈だった。あんなのとやったらタフにならざるを得ないね。
しかし、新潟側から見たとき、同じ試合は全く様相を変える。試合後、柳下正明監督は「俺がヒーローになる、というヤツが多過ぎる。自滅した」とカンカンだった。一からやり直しだそうだ。そこにあるのは何かというと、チームで戦うことを忘れたひとりよがりのプレーだろう。
ここに具体的なプレーを書くと個人攻撃になりかねないから、ちょっと角度を変えて、アイスホッケーの話にしよう。全く同じことがアイスホッケーの世界でも起きる。そういうとき、カナダ人のコーチは「彼はセルフィッシュなプレーをした」とか「○○はセルフィッシュな選手だ」という言い方をする。身体をぶつけ合うコンタクトスポーツで、セルフィッシュな選手が出るとチームがガタガタになる。連携もリズムも緩んでしまって、しばらく後遺症が出る。
で、セルフィッシュなプレーはどういうときに出るか、という話。文字通り利己的な性格の選手ならスカウティングの段階でハネればいいし、間違ってチームに加わっても次の契約で切ればいい。問題は利己的な性格じゃなくて、(普段、いっしょうけんめいやってる選手の)ちょっとした心の緩みであり、色気なんだなぁ。アジアリーグ・アイスホッケーには「チャイナドラゴン」という、力量的に劣る中国チームが参加していて、13-14シーズンは42戦42敗だった。で、僕がサポートしてる日光アイスバックスの場合、チャイナと当たると必ずおかしくなる。
試合が始まり、力量差は歴然としている。と、普段、シンプルなプレーを徹底していたはずのチームが緩んで、こう、技巧的な真似をしようとしたり、自分が決めてやると功名心に走ったりする。つまり、格好のいいところを見せようとする。当のチャイナには何とか勝つんだよ。次の対戦カードが悲惨なことになる。いったん緩んでしまうと戻せないんだね。
広島はむろん「力量的に劣るチーム」じゃないけれど、試合後半、足が止まった。こりゃもらったと誰もが思う。いける。勝てる。そういうとこに落とし穴があるんだなぁ。ヤンツーさんの怒りは、この試合を取れなかったというだけじゃないね。何でかっていうと「セルフィッシュ」は伝染する、たちの悪い病だからね。
広島戦で見えた問題点は「決定力不足」や「押してる試合で勝ち切れない」「またまたスコアレスドロー」みたいな部分だけじゃないと思うんだ。もっと上を目指すには足りないものがある。逆に言えば、まだまだ伸びしろのあるチームってところだね。
附記1、これは例えば「ストライカーは本能に従う」的な考え方とバッティングする気がしますよね。ま、今回の話自体はチームとして戦う姿勢って領域だけど、僕ね、「ストライカー=利己的なくらいでちょうどいい」って一種、都市伝説だと思うんですよ。これ、誰かモデルがいるのかなぁ? ホントのところ、あんまり利己的な選手はチームスポーツ向いてないと思うんですよ。
2、この日、鳥屋野潟一帯は桜の終わり頃で、花吹雪が素晴らしかったみたいですね。
3、読者がモバアルでこれをご覧になってるとき、僕は既に四国入りしています。週の前半、死ぬ気で働いて3泊4日スケジュールを空けた。今日は高松空港に降りて、うどん三昧じゃないかな。あ、そうそう、徳島戦当日はついに「高徳線」もしくは「高徳エクスプレス」に乗車する予定。これは元アルビレックス新潟所属の酒井高徳選手を顕彰する路線として名高く、すいません、ウソをつきました。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
J1第8節、新潟×広島。
この日は皇后盃・全日本女子柔道選手権の取材で横浜文化体育館に午前中から詰めていた。柔道の現場は生涯で2度めじゃないか。事前に取材申請をしておいて、当日、受付で報道パスをもらうのだが、パスに何と「お弁当引換券」がついていた(!)。報道控え室の係のおねえさんに「宮内庁御用達 青山」謹製の唐揚げ弁当&お茶のブリックパックをいただく。なかなかお弁当出してくれる現場はサッカーにはないなぁ。僕の知ってる範囲ではジェフ市原時代、臨海競技場のプレスルームでおにぎりを用意してくれてたのが唯一のケースだね。
で、お弁当云々が書きたいんじゃなくて、話は何かというと全日本女子柔道選手権のNHK中継だ。当日は16時から準々決勝以降の生中継が組まれていた。当然、録画して、後で確認したんだけどね、これがじゃんじゃん映り込んでる。記者席がスタンドじゃなく、体育館フロアの長テーブル&パイプ椅子ってところがミソだなぁ。試合のインターバルで記者席方向へカメラがパーンすると、紺ブレ姿の僕がほぼ100パー、ケータイ速報をにらんでいる。デンカビッグスワンでスコアがぜんぜん動かない。ヤキモキしている。つまり、証拠映像が残ってしまったのだ。
お弁当まで出してもらって記者モラル0点とお叱りを受けそうだが、もちろん試合中はケータイは見ない。スポナビ速報がケータイ画面に出してあって、「組み際の右小外刈り技ありで、合わせて一本!」的な瞬間にサッと視線を走らせる。と、0対0だ。おっかしいなぁ。サンフレッチェ広島は敵地のACL第5戦・北京国安戦から中3日でへろへろじゃないのか。
結局、ビッグスワンはスコアレスドローでタイムアップ。うーん、また負けなかったけど、皆、フラストレーションたまったろうなぁと想像する。今季、新潟は得点も失点もめちゃめちゃ少ない。まぁ、カンタンに言うとスコアレスドローの試合が多いんだよね。横浜文化体育館のほうは山部佳苗選手(ミキハウス)が鮮やかな払い腰一本で優勝を決めた。こういうスッキリした決着が望ましいのだ。
帰宅後、NHK柔道中継の映り込みに頭をかいた後、さっそく広島戦を録画観戦する。面白い試合なんだけど、勝たなきゃいけないなぁ。両チームとも中3日だが、新潟はナビスコ甲府戦&広島戦とビッグスワン連戦だ。対して広島は北京、新潟とアウェー連戦。そりゃ後半、運動量落ちますよ。結局、広島の放ったシュートはたった1本(新潟は12本)。3対0くらいで葬り去っていいくらい、コンディションに差があった。
まぁ、当たりさわりのないことを言うようだけど、まず思ったのは広島のガマンがきいた試合だなぁということ。2連覇中のディフェンディングチャンピオンはタフだ。この試合は後半のどこかの時点でドロー狙いに切り替えたと思うんだよね。粘って勝ち点1上等。で、それが実行できるチームなんだ。日テレG+のACL中継を見てると、不可解な判定や危険なプレーにも驚くんだけど、たまにモンスター級の選手がいるんだよね。北京国安のホフレ・ゲロン(エクアドル代表選手)が強烈だった。あんなのとやったらタフにならざるを得ないね。
しかし、新潟側から見たとき、同じ試合は全く様相を変える。試合後、柳下正明監督は「俺がヒーローになる、というヤツが多過ぎる。自滅した」とカンカンだった。一からやり直しだそうだ。そこにあるのは何かというと、チームで戦うことを忘れたひとりよがりのプレーだろう。
ここに具体的なプレーを書くと個人攻撃になりかねないから、ちょっと角度を変えて、アイスホッケーの話にしよう。全く同じことがアイスホッケーの世界でも起きる。そういうとき、カナダ人のコーチは「彼はセルフィッシュなプレーをした」とか「○○はセルフィッシュな選手だ」という言い方をする。身体をぶつけ合うコンタクトスポーツで、セルフィッシュな選手が出るとチームがガタガタになる。連携もリズムも緩んでしまって、しばらく後遺症が出る。
で、セルフィッシュなプレーはどういうときに出るか、という話。文字通り利己的な性格の選手ならスカウティングの段階でハネればいいし、間違ってチームに加わっても次の契約で切ればいい。問題は利己的な性格じゃなくて、(普段、いっしょうけんめいやってる選手の)ちょっとした心の緩みであり、色気なんだなぁ。アジアリーグ・アイスホッケーには「チャイナドラゴン」という、力量的に劣る中国チームが参加していて、13-14シーズンは42戦42敗だった。で、僕がサポートしてる日光アイスバックスの場合、チャイナと当たると必ずおかしくなる。
試合が始まり、力量差は歴然としている。と、普段、シンプルなプレーを徹底していたはずのチームが緩んで、こう、技巧的な真似をしようとしたり、自分が決めてやると功名心に走ったりする。つまり、格好のいいところを見せようとする。当のチャイナには何とか勝つんだよ。次の対戦カードが悲惨なことになる。いったん緩んでしまうと戻せないんだね。
広島はむろん「力量的に劣るチーム」じゃないけれど、試合後半、足が止まった。こりゃもらったと誰もが思う。いける。勝てる。そういうとこに落とし穴があるんだなぁ。ヤンツーさんの怒りは、この試合を取れなかったというだけじゃないね。何でかっていうと「セルフィッシュ」は伝染する、たちの悪い病だからね。
広島戦で見えた問題点は「決定力不足」や「押してる試合で勝ち切れない」「またまたスコアレスドロー」みたいな部分だけじゃないと思うんだ。もっと上を目指すには足りないものがある。逆に言えば、まだまだ伸びしろのあるチームってところだね。
附記1、これは例えば「ストライカーは本能に従う」的な考え方とバッティングする気がしますよね。ま、今回の話自体はチームとして戦う姿勢って領域だけど、僕ね、「ストライカー=利己的なくらいでちょうどいい」って一種、都市伝説だと思うんですよ。これ、誰かモデルがいるのかなぁ? ホントのところ、あんまり利己的な選手はチームスポーツ向いてないと思うんですよ。
2、この日、鳥屋野潟一帯は桜の終わり頃で、花吹雪が素晴らしかったみたいですね。
3、読者がモバアルでこれをご覧になってるとき、僕は既に四国入りしています。週の前半、死ぬ気で働いて3泊4日スケジュールを空けた。今日は高松空港に降りて、うどん三昧じゃないかな。あ、そうそう、徳島戦当日はついに「高徳線」もしくは「高徳エクスプレス」に乗車する予定。これは元アルビレックス新潟所属の酒井高徳選手を顕彰する路線として名高く、すいません、ウソをつきました。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
