【コラム】えのきどいちろうのアルビレックス散歩道 第236回
2014/11/6
「バトル・オブ・ベアスタ」
この日は日光アイスバックスの業務を終えて、東武線で帰宅中でしたね。韓国の強豪ハイワンに負けて、気分的にはちょっとむしゃくしゃしてたのを覚えてる。17時39分発の区間快速だった。奥日光の紅葉シーズンが始まって、車内はぎゅうぎゅう詰めの大混雑だ。そのなかで僕はケータイ速報をチラ見する。
前半はスコアレスで推移するのかなと思ったら、42分、モニターに指宿洋史のゴールが表示された。よっしゃあ~! いや、もちろんベアスタで見てる人にはすべての点でかなわない。僕は状況もわかってないし、もし、誤報か何かだったら喜び損だ。だけどね、ボックス席でハイキング帰りの日本人女性と中国人カップルに囲まれ、通路にはアメリカ人グループやらが立ってるなかで「よっしゃあ~!」だよ。つい両手グーだよ。反射的に叫んでしまったけど、みんなに見られた。
こういうときは困るねぇ。説明するわけにもいかないし、説明しても結局バカだと思われるでしょう。しょうがないから肩をすくめ、ニヤリですよ。中国人カップルが気味悪がってた。で、その後はチラ見に次ぐチラ見ですな。でもって、チラ見続きの後半27分、今度は田中達也の得点が表示された。おっけぇえ~! 中国人カップルがまたギクッとこっちを見た。しょうがないじゃん、田中達也が今季2ゴールめを決めたんだよ。つまり、僕は「バトル・オブ・東武線車内」を戦っていた。もちろん試合終了の表示が出たときはもう一回、ガッツポーズだ。
で、夜、帰宅してさっそくスカパー録画を再生、東武線車中、爆発的に思いをめぐらせてた妄想ゴールシーンと実際のそれのすり合わせをする。妄想よりか実際のほうが何倍も痛快だ。1点めは(小林裕紀の累積欠場で)ボランチ起用された小泉慶がよく粘って球出ししたね。それを田中亜土夢がスペースへ送り、指宿洋史がズドーン! 指宿って選手は「デカいのに足元もある」じゃなく、そもそも足元が器用なんだね。テクニック系大男。ちょっと今まで見なかったタイプだ。
そのテクニックが如何なく発揮されたのは2点めだね。あれは指宿のターンの時点で勝負あった。もう、敵がみんな引きつけられて、田中達也ガラ空きだね。で、田中達也のゴールが落ち着いてる。キャリアはダテじゃないです。心憎い。決めた後は達也本人も喜んでたけど、まわりの選手が嬉しそうだったね。あれは最高のシーンだと思った。
それからスコア自体にはからまなかったけど、この試合は鈴木武蔵が効いてるね。もちろんスポットライトはスタメンFWの相方・指宿や、自分と交代で入った田中達也に持っていかれた格好だけど、献身的によく動いていた。武蔵はサボらないね。試合間隔の詰まった3連戦のラスト、武蔵に動きまわられたら相手はほとほと嫌だと思う。この武蔵の「サボらない」良さが新潟っぽさなんだよ。田中亜土夢もそうだ。(ちなみに先日見に行った栃木SCのゲームで本間勲にも同じことを感じた)。
さて日曜日の夜、お風呂に入ってスカパー見て、それから「有吉反省会」や「ガキの使い」や「やべっち」なんかが終わって、あぁ、もう寝なきゃと思うんだけど(身体は疲れてるのに)神経が起きちゃって眠れないとき、どうしますか? 寝なきゃ月曜がきついのはわかってるんだけど、もう少し日曜日をやってたい気持ちも働いてる。その日、僕がとった行動は「眠くなったらいつでも寝るつもりで、もういっぺんスカパーを再生する」でした。これはね、いちばん甘い時間ですよ。いっぺん読んで面白いとわかってるマンガを読む。いっぺん見て勝つとわかってる試合を見る。
日曜深夜(というか月曜未明)、また鳥栖に勝ちました。これでオンタイムで東武線車中で勝って、帰宅してさっそく見て勝って、深夜勝って3勝め。どうやらこれは何べん見ても勝ってるな。今度はシュートシーンとは別のところが何となく目に入ってきた。この試合はね、もちろん「勝って嬉しい」が大前提だけど、それだけじゃない魅力があるんだよ。「バトル・オブ・ベアスタ」。持ち味が似ていると評される2チームがガチで激突している。球際が厳しいよ。寄せも早い。
だから「勝って嬉しい」だけじゃなく「戦ってる姿が嬉しい」もあるんだな。セカンド拾ってるの新潟のほうでしょ。ガシガシ行ってるのも、動けてるのも新潟。鳥栖を上回るがんばりに感動するんだな。3連戦のラストが遠方のアウェーでも負けないんだ。
あと鳥栖・吉田恵監督の会見コメント、「(田中達也のゴールに関して)少しリズムの変わった選手が入ってきたときにそこに対応しきれないことがある」はどんな感じか見入ったな。田中達也はそれを意識して入ってきてるね。監督の指示か達也の感覚か、もしかするとそれ両方ある気がするけど、相手の嫌がることをしてるんだ。
で、最後は見ないで寝ましたけどね、翌月曜日、また見てやんの。同じ鳥栖戦で4勝め。これ勝ち点12じゃないんだ、3なんだ。そりゃそうなんだけどね。「一粒で二度おいしい」どころか、3回再生して全部おいしい。
附記1、試合後、指宿選手のヒーローインタビュー聞いて思ったんですけど、この人いい声ですよね。昔、声楽やってる人から教わったんですけど、背が高い人は構造的に声帯も長いらしいですね。あと人間の身体は楽器と同じだから、共鳴するボディが大きいとコントラバスみたいに低く深い響きが出せるんですよ。
2、今週売りの『週刊サッカーダイジェスト』が話題になってますね。まぁ、サッカー誌の特集企画はファンに話題を提供するのが趣旨ですから、居酒屋談義に花を咲かせる分にはいいけど、移籍ネタに大袈裟に反応しても現時点ではあんまり意味ないでしょ。
3、今週は赤瀬川原平さんの訃報がショックでした。僕は学生時代、赤瀬川さんの文章を読んで、ミニコミ作って原稿書き始めたんですよ。ちょうどバンド組んで「ストーンズのコピーやる」感覚で、赤瀬川さんのコピーやるんだな。こういう感じに書くにはどうしたらいいだろうって。で、社会人になってからは南伸坊さんご夫妻に仲人さんをお願いしたりして、路上観察学会の動きを身近に感じることができた。ラジオ番組でご一緒したとき、トマソン選手(元巨人)の野球カードに「赤瀬川原平」とサインしてもらってめっちゃ自慢だったなぁ。こんな寂しいことはないですよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!

この日は日光アイスバックスの業務を終えて、東武線で帰宅中でしたね。韓国の強豪ハイワンに負けて、気分的にはちょっとむしゃくしゃしてたのを覚えてる。17時39分発の区間快速だった。奥日光の紅葉シーズンが始まって、車内はぎゅうぎゅう詰めの大混雑だ。そのなかで僕はケータイ速報をチラ見する。
前半はスコアレスで推移するのかなと思ったら、42分、モニターに指宿洋史のゴールが表示された。よっしゃあ~! いや、もちろんベアスタで見てる人にはすべての点でかなわない。僕は状況もわかってないし、もし、誤報か何かだったら喜び損だ。だけどね、ボックス席でハイキング帰りの日本人女性と中国人カップルに囲まれ、通路にはアメリカ人グループやらが立ってるなかで「よっしゃあ~!」だよ。つい両手グーだよ。反射的に叫んでしまったけど、みんなに見られた。
こういうときは困るねぇ。説明するわけにもいかないし、説明しても結局バカだと思われるでしょう。しょうがないから肩をすくめ、ニヤリですよ。中国人カップルが気味悪がってた。で、その後はチラ見に次ぐチラ見ですな。でもって、チラ見続きの後半27分、今度は田中達也の得点が表示された。おっけぇえ~! 中国人カップルがまたギクッとこっちを見た。しょうがないじゃん、田中達也が今季2ゴールめを決めたんだよ。つまり、僕は「バトル・オブ・東武線車内」を戦っていた。もちろん試合終了の表示が出たときはもう一回、ガッツポーズだ。
で、夜、帰宅してさっそくスカパー録画を再生、東武線車中、爆発的に思いをめぐらせてた妄想ゴールシーンと実際のそれのすり合わせをする。妄想よりか実際のほうが何倍も痛快だ。1点めは(小林裕紀の累積欠場で)ボランチ起用された小泉慶がよく粘って球出ししたね。それを田中亜土夢がスペースへ送り、指宿洋史がズドーン! 指宿って選手は「デカいのに足元もある」じゃなく、そもそも足元が器用なんだね。テクニック系大男。ちょっと今まで見なかったタイプだ。
そのテクニックが如何なく発揮されたのは2点めだね。あれは指宿のターンの時点で勝負あった。もう、敵がみんな引きつけられて、田中達也ガラ空きだね。で、田中達也のゴールが落ち着いてる。キャリアはダテじゃないです。心憎い。決めた後は達也本人も喜んでたけど、まわりの選手が嬉しそうだったね。あれは最高のシーンだと思った。
それからスコア自体にはからまなかったけど、この試合は鈴木武蔵が効いてるね。もちろんスポットライトはスタメンFWの相方・指宿や、自分と交代で入った田中達也に持っていかれた格好だけど、献身的によく動いていた。武蔵はサボらないね。試合間隔の詰まった3連戦のラスト、武蔵に動きまわられたら相手はほとほと嫌だと思う。この武蔵の「サボらない」良さが新潟っぽさなんだよ。田中亜土夢もそうだ。(ちなみに先日見に行った栃木SCのゲームで本間勲にも同じことを感じた)。
さて日曜日の夜、お風呂に入ってスカパー見て、それから「有吉反省会」や「ガキの使い」や「やべっち」なんかが終わって、あぁ、もう寝なきゃと思うんだけど(身体は疲れてるのに)神経が起きちゃって眠れないとき、どうしますか? 寝なきゃ月曜がきついのはわかってるんだけど、もう少し日曜日をやってたい気持ちも働いてる。その日、僕がとった行動は「眠くなったらいつでも寝るつもりで、もういっぺんスカパーを再生する」でした。これはね、いちばん甘い時間ですよ。いっぺん読んで面白いとわかってるマンガを読む。いっぺん見て勝つとわかってる試合を見る。
日曜深夜(というか月曜未明)、また鳥栖に勝ちました。これでオンタイムで東武線車中で勝って、帰宅してさっそく見て勝って、深夜勝って3勝め。どうやらこれは何べん見ても勝ってるな。今度はシュートシーンとは別のところが何となく目に入ってきた。この試合はね、もちろん「勝って嬉しい」が大前提だけど、それだけじゃない魅力があるんだよ。「バトル・オブ・ベアスタ」。持ち味が似ていると評される2チームがガチで激突している。球際が厳しいよ。寄せも早い。
だから「勝って嬉しい」だけじゃなく「戦ってる姿が嬉しい」もあるんだな。セカンド拾ってるの新潟のほうでしょ。ガシガシ行ってるのも、動けてるのも新潟。鳥栖を上回るがんばりに感動するんだな。3連戦のラストが遠方のアウェーでも負けないんだ。
あと鳥栖・吉田恵監督の会見コメント、「(田中達也のゴールに関して)少しリズムの変わった選手が入ってきたときにそこに対応しきれないことがある」はどんな感じか見入ったな。田中達也はそれを意識して入ってきてるね。監督の指示か達也の感覚か、もしかするとそれ両方ある気がするけど、相手の嫌がることをしてるんだ。
で、最後は見ないで寝ましたけどね、翌月曜日、また見てやんの。同じ鳥栖戦で4勝め。これ勝ち点12じゃないんだ、3なんだ。そりゃそうなんだけどね。「一粒で二度おいしい」どころか、3回再生して全部おいしい。
附記1、試合後、指宿選手のヒーローインタビュー聞いて思ったんですけど、この人いい声ですよね。昔、声楽やってる人から教わったんですけど、背が高い人は構造的に声帯も長いらしいですね。あと人間の身体は楽器と同じだから、共鳴するボディが大きいとコントラバスみたいに低く深い響きが出せるんですよ。
2、今週売りの『週刊サッカーダイジェスト』が話題になってますね。まぁ、サッカー誌の特集企画はファンに話題を提供するのが趣旨ですから、居酒屋談義に花を咲かせる分にはいいけど、移籍ネタに大袈裟に反応しても現時点ではあんまり意味ないでしょ。
3、今週は赤瀬川原平さんの訃報がショックでした。僕は学生時代、赤瀬川さんの文章を読んで、ミニコミ作って原稿書き始めたんですよ。ちょうどバンド組んで「ストーンズのコピーやる」感覚で、赤瀬川さんのコピーやるんだな。こういう感じに書くにはどうしたらいいだろうって。で、社会人になってからは南伸坊さんご夫妻に仲人さんをお願いしたりして、路上観察学会の動きを身近に感じることができた。ラジオ番組でご一緒したとき、トマソン選手(元巨人)の野球カードに「赤瀬川原平」とサインしてもらってめっちゃ自慢だったなぁ。こんな寂しいことはないですよ。
えのきどいちろう
1959/8/13生 秋田県出身。中央大学経済学部卒。コラムニスト。
大学時代に仲間と創刊した『中大パンチ』をきっかけに商業誌デビュー。以来、語りかけられるように書き出されるその文体で莫大な数の原稿を執筆し続ける。2002年日韓ワールドカップの開催前から開催期までスカイパーフェクTV!で連日放送された「ワールドカップジャーナル」のキャスターを務め、台本なしの生放送でサッカーを語り続け、その姿を日本中のサッカーファンが見守った。
アルビレックス新潟サポータースソングCD(2004年版)に掲載されたコラム「沼垂白山」や、msnでの当時の反町監督インタビューコラムなど、まさにサポーターと一緒の立ち位置で、見て、感じて、書いた文章はサポーターに多くの共感を得た。
著書に「サッカー茶柱観測所」(週刊サッカーマガジン連載)。 新潟日報で隔週火曜日に連載されている「新潟レッツゴー!」も好評を博している。
HC日光アイスバックスチームディレクターでもある。
アルビレックス新潟からのお知らせコラム「えのきどいちろうのアルビレックス散歩道」は、アルビレックス新潟公式サイト『モバイルアルビレックス』で、先行展開をさせていただいております。更新は公式携帯サイトで毎週木曜日に掲載した内容を、翌週木曜日に公式PCサイトで掲載するスケジュールとなります。えのきどさんがサポーターと同じ目線で見て、感じた等身大のコラムは、試合の感動がさめる前に、ぜひ公式携帯サイトでご覧ください!
